アニマ浜口
「気合だ、気合だ、気合だ」
気が付くと私はそのフレーズを連呼していた。いつからそうしていたのか、 なぜそうしているのかは分からなかった。”気合” という言葉の意味はおろか、 自分が何者であるかすらも思い出せなかった。ただ一つ、私に” キョウコ”と呼ばれていた大柄な女性が、 すっかり冷たくなった私の体に覆いかぶさり、泣き叫び、 ひどく悲しんでいる光景だけは覚えていた。
「気合だ、気合だ、気合だ」
どこでもないこの場所で、 きっと私は壊れたレコードのように永遠にこの意味の分からない言 葉を叫び続けるのだろう。それでも絶望に陥っていないのは、 その唯一覚えている光景が、 なぜか私をおだやかな気持ちにさせるからだ。